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2007年10月11日 (木曜日)

レクイエム(長文注意)

ケンさんへ……。

(ええっと、文体からいって、ケンさんですよね。)

 

……かれの足跡やら、ものの考え方は、かなり独特のものがあって、一般人からみると、よくいえば目からうろこ、わるくいえばへりくつ、と受け取られる発言が、多々ありました。いまとなってはなつかしい。

カネにかんしては、こんなやりとりがありましたね。

サークルの会誌上で、あるメンバーが、「自分は、この活動に興味が有って、会費を払ってメンバーになっている、でも、原文入力やら拡大写本やら点訳やらやりたいのだが、[忙しくて]、実際の活動に参加するにいたっていなくて、なんだかもうしわけない」  ([]内は、この場合、なんでもよい。難しくて、めんどくさそうで、パソコンの能力が低くて、遠くに住んでいて、ETC)

これに対する彼の答は、こういうものでした。

「あなたは、わたしらの活動に興味をもって下さって、こうして入会してくださり、ちゃんと会費も払って下さってる。それだけでも十分なんです。お金がないと、集会の場所をかりたり、コピー代だってでないし、送料などにもことかいて、活動はすぐ行き詰まってしまいます。汗をかかないことを申し訳なく感じることなんて全然ないです。新聞やネットでわたしたちの活動を見て、興味をもっても、そこから先二通りにわかれて、あなたのようにメンバーになってくれる人と、なってくれない人があるわけで、メンバーになってくれたあなたは、立派な同志です」

というような、かれの意見でした。

まあちょっときれい過ぎる彼の言い方だけと、まあニュアンスはわかるとおもいます。

 

 

実際のところ、こんなに雑費が出て行くとはわたしも知りませんでした。

 

 

 

 

そもそも、どういうことを言い出した人間か、追悼の意味もこめてかいておきましょう。

まず簡単に点字についてかいときます。点字(のうち、日本で一番普及している代表的な標記ルール)では、6つの点で1つの意味を表示しています。6ビットで1バイトになっている感じですね。で、点字用紙、という厚紙に、点字で表現するわけです。

この1バイトがカナの1文字相当で、全体としては、漢字仮名交じり文の原本を、全部ひらがな表現にして、それを点字用紙に表現して行く、という感じです。漢字をかなにひらくことと、点字がある程度の大きさであることと、点字用紙が厚いため、体積でいえば、多分、ほとの本の20倍くらいになります。

で、さて、当時、パソコンまたは専用機で制御する「点字プリンタ」というものがぼつぼつ普及し始めていました。点字プリンタの原理は説明しやすいですね。ドットインパクトプリンタのピンが大きくなったシロモノです。しかし、当時、大部分は、点訳者が、手で、大きなはりのようなもの(工具でいえば、ポンチ、というものがありますがあんな感じ)で、点字用紙に一点一点、手で突起を表現します、文字どおりの家内制手工業、という感じです。点字プリンタは非常に高価で、点訳者も、目の不自由な方も、個人でもてるものではなかった。

当時はNEC98が全盛で、ワープロ専用機も全盛。家庭用ページプリンタは出始め、98シリアルポートを使う漢字仮名交じり文の音声合成装置はすでにあったが高かった。

かれが90年頃に提唱した考え方は、以下のようなものです。ととろは、これを旧ニフティサーブの電子掲示板で読んで興味をひかれたのがそもそもの始まりでした。

「点訳は、細々と地域のグループでばらばらに行われている。また、弱視者向けの拡大写本(弱視の方向けに、大きな文字でリプリントしたもの)というものも、地域のサークルが細々とやっているだけだ、それも、ほとんどが弱視のこども向けの教科書にその労力を向けている。それも、手書きでフェルトペンでかいているので、これには、字の綺麗な人しか参加出来ない。こういうサークルは、ほとんど横の連絡がないので、あるベストセラーが、全国で同時多発的に点訳される、というむだも有り得る。また、点字の本は、LPレコードと同じで、指で触って行くので、繰り返し読まれると減耗して行き、最後にはだめになる。

そこで、次のようにすれば、課題やボトルネックを解消できるのではないか。

まず、版元や著者に連絡をとり、『あなたの本を、データ入力して、目の不自由な方が読めるようにしたい、営利目的には絶対に使わないので許可してくれ』とお願いして、許諾をもらう。

で、メンバーが、これをパソコンやワープロソフトで、漢字仮名交じり文のまま入力する。OCRでもよい。これがいわば前工程。これがいわばエントロピーが一番高いデータで、いわばメタデータ、ということになる。

このメタデータをベースにして、原油からさまざまな石油化学製品をつくるように多用途活用すればよい。このメタデータを点訳支援ソフトを流し込めばあらい点字データができるので、点訳者がそれを精緻に校正すれば相当にスピードアップできるはずだ。点字の生成や校正は点字の知識を持つ点訳者しかできないが、原文入力はだれでもできるので、点訳者は後工程だけ受け持てば良い。分業でスピードアップできる。で、それを点字プリンタで打てばよい。

また、このデータをDTPソフトをつかって、大きな文字でリプリントすることもできる。弱視者の場合、見え方、見にくさは千差万別なので、同じ内容の本でも、たとえばAさん向けには20ポイントの文字で黒い文字で縦書きで明朝体で、Bさん向けには30ポイントの文字で赤い文字で横書きでゴシック体で、教科書の拡大写本のリプリントの時は教科書体で、といった、パーソナルニーズに完全に対応出来る。

また、点字をよむことができない全盲の人向けには、この原文データをパソコンの音声合成装置で読み上げられるように加工すればよい。

入力した原文データのタイトルは開示して、他のグループが重複入力しないようにしたい。同じものを2度以上電子化するのはまったくむだだから。そのために、点訳グループの横の連絡を広げ、データをグループ内だけで囲い込むことをやめ、目の不自由な人からリクエストがあったら、それまで交流がない人であっても、よろこんで提供するようにしようじゃないか!?」

というものです。 

……90年ころに彼はこういう構想をぶちあげたわけです。

 

うん。

で、ととろも、いたくこの構想にひかれて、仲間入りしたわけです。

この構想は、当時としては、とても壮大。まさにビーイングデジタル、まさにサードウェーブ。なんていうか、火縄銃でやってる戦争の最中に、米軍の超音速爆撃機を導入するようなもんです。

 

……うん。かれはそんな、いま風にいう、『ビジョナリスト』でした。

かれがいなければ、点訳や拡大写本のIT化は、大幅に遅れていたのは間違いない、という点が伝われば幸いでございます。

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コメント

 
  ε ⌒ ヘ ⌒ヽフ    ブヒ。 
 (   (  ・ω・)      
  しー し─J     ながっ!


これは、すばらしいと思う。ほんとに、すごいことだ、と。

「スジ論」でビシツと納得ができて、ひとりよがりとか、信念のみとかじゃない。、あと、その方の年齢から逆算すると、やっぱし、柔軟性というか、先見の明、ですよね

これ、ここまできちんとしてて、どこかの会社とか役所とか大学とか、協力してくんなかったんですか
商業主義的にはしたくなかったのかもしれないですが、ものすごく、企業が組みたがる構想にも思えるのです

その方のアイデアの結実かも知れないですが、前に書いた世の中全体の停滞振りと違って、障害のある方のインターフェースは、何かスポーンと、大きい風穴が開いてくれそうな気も部外者からは、するのですが、そんな甘いもんじゃないですか。

場当たり的な、社会保険庁のデータ処理より、というか比べるのが失礼なくらい、しっかりしている、と感じました

しかし、どうなんでしょう、当方、虹の輪っかとかが、夜の光に見え初めてもう数十年、老眼考えなきゃいかん年なのに、近眼がすすむ、と訳がわからんのですが、点字の予習を、、、と、この話はやめましょう。前みたいなのは、なしにしてください。怖いので

目は大丈夫です。IEの拡大倍率100パーで、下のスキンの出典が読めますので。体調次第です。
これ、jun inoue氏って、「お世話になりました」の、井上順さんですか、まさか

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